日経グッデイ2017年11月号1130万人もの日本人男性が悩むといわれる勃起障害・勃起不全(Erectile Dysfunction、以下ED)。「年のせいだから仕方ない」と考えて放置する人が多いが、EDは性機能の障害にとどまらず、心筋梗塞や脳卒中を引き起こす「動脈硬化」の前ぶれでもあることが分かってきた。昭和大学藤が丘病院副院長・泌尿器科教授の佐々木春明氏に、EDと動脈硬化の関係や、新しいタイプのED治療薬などについて聞いた。

■発症年齢のピークは「30~40代」「50~60代」の2つ

――EDといっても、ピクリとも勃起しない人もいれば、勃起はするが萎えるという人もいて、幅があります。どのような状態をEDと呼ぶのですか。

EDとは、満足な勃起が得られない、あるいは勃起を維持できず性交で満足感を得られない状態をいいます。「性交はうまくいかないけどマスターベーションは問題ない」「5回の性交のうち4回はうまくいく」という人もEDに該当しますし、「性交はできるが硬さが足りない」という人も軽症のEDといえます。

日本のED患者は約1130万人と推計されています[注1]。しかし、これは中等度から重度の人だけを指す数字にすぎません。上記のような軽症の人も含めれば、さらに膨大な数になると思われます。

――EDは「年のせい」で片づけられがちですが、加齢だけが原因なのでしょうか。

図1の通り、EDになりやすい年齢には2つのピークがあり、原因がそれぞれ異なります。第1のピークは30代後半から40代前半に多い、精神的な理由による「心因性ED」です。この年代は子作り世代でもあり、妻からは「明日は排卵日だから」と「仲良くする日」を指定され、親からは「孫はまだか」とプレッシャーをかけられます。高齢出産に該当する場合は特に、精神的重圧も強くなります。そんな状況で勃起するのは難しい上、一度うまくいかないと余計に萎えてしまいます。

第2のピークは、50代から60代にかけて起きる「器質性ED」です。これは、高血圧、糖尿病、脂質異常症などの生活習慣病や、メタボリックシンドローム、肥満、加齢などにより、血管が硬く、もろくなる(老化する)ことが原因です。

性的な刺激を受けると、脳から「勃起しなさい」という指令が出ます。それが勃起神経に伝わって陰茎動脈に血液が流れるのですが、老化した血管は硬くて血液がうまく流れ込みません。十分な血液が届かないので、勃起しても硬さが足りない、あるいは勃起しない状態に陥ります。

(資料提供:昭和大学藤が丘病院泌尿器科)

――動脈が硬くなるということは、器質性EDは動脈硬化と関連があるということですか。

その通りです。陰茎動脈が硬いということは、EDの人は動脈硬化を起こしている、あるいは起こしかけているということを意味します。理由は、他の動脈に比べると陰茎動脈が細いからです。

血管の太さは、陰茎の根元が1~2mm、心臓の冠動脈の根元は3~4mm、頸動脈は5~6mmといわれます。動脈硬化は細い血管から先に起こるため、真っ先にやられるのが血管の細い陰茎です。狭心症や心筋梗塞が起きる前から、陰茎では動脈硬化がひそかに進行しつつあるのです。

このことは、図2を見ても明らかです。左の健康な人は、血管が徐々に細くなっていきます。それに対して、右の糖尿病でEDのある人は、太い血管は同じなのに、細い血管が少しギザギザして先細りしています。これが動脈硬化なのです。こうなると、血液が陰茎の先まで届きません。

陰茎動脈の太い部分は左右いずれも問題ないが、糖尿病でEDのある患者は海綿体動脈が閉塞し、先細りしている(資料提供:昭和大学藤が丘病院泌尿器科)

■水なしでも飲める薬も登場

――EDの治療といえばバイアグラが有名です。どう作用するのか、仕組みを教えてください。

[注1] 丸井英二. わが国におけるEDの疫学とリスクファクター. 医学のあゆみ. 2002;201:397-400.

バイアグラ(一般名シルデナフィル)を含め、現在は3つのED治療薬があります(表1)。特徴を端的にいうなら、硬さを得るならバイアグラ、早く効かせたいならレビトラ(一般名バルデナフィル)、長持ちさせたいならシアリス(一般名タダラフィル)、といったところでしょうか。

※いずれも、ニトログリセリンなどの狭心症の治療薬(硝酸薬)を飲んでいる人、血圧が高すぎる人・低すぎる人、脳梗塞や脳出血・心筋梗塞を起こしてから間もない人などは使うことができない。

脳が出す勃起指令は、ホスホジエステラーゼ5(PDE5)という酵素によって分解されると消えてしまいます。裏を返せば、勃起を持続させるには、勃起指令が分解されないようにすればいいわけです。EDの治療薬はPDE5の働きを阻害する役割を持つことから、PDE5阻害薬と呼ばれます。

どの薬も健康保険(公的医療保険)の使えない自由診療の扱いになりますが、バイアグラにはジェネリック(後発医薬品)も複数出ています。従来のバイアグラと同じ効果で価格は7~8割程度なので(医療機関によって異なる)、使用する人が増えています。

――でも、雰囲気が盛り上がったときに薬を飲むと「中折れ」しそうです。良い方法はないものでしょうか。

確かに、薬を飲むには水がいるし、中断して萎えないように飲むタイミングも考えねばなりません。錠剤をどこに入れて持ち歩くかも悩むところです。

こうした悩みに応えるように、メーカーは年々、剤形の工夫を進めています。バイアグラのジェネリックの中にはラムネのように溶けて水なしで飲めるOD錠[注2]もあります。また、2016年に発売された「バイアグラODフィルム」は、舌に乗せる薄いフィルム形の薬で、こちらも水なしで使うことができる上、薄いので財布の中に入れてもかさばりません。価格はバイアグラのジェネリックと同程度に設定されていることが多いので、今後は錠剤に代わって広く使われるでしょう。

――EDが動脈硬化の前ぶれなら、EDの治療薬は動脈硬化にも効くのではないかと思ってしまいます。実際にそういった使い方はされないのでしょうか。

動脈硬化の予防のみを目的にED治療薬を処方することはできませんが、PDE5阻害薬には血管を保護する作用があるので、ED治療として週に2~3回、少量を使うことで、動脈硬化も改善する副次的効果が期待されています。

PDE5阻害薬は前立腺肥大症にも効果を発揮します[注3]。前立腺肥大症の治療薬ザルティア(一般名タダラフィル)がそうです。商品名や薬の形状が違うだけで、成分はシアリスと全く同じです。

■ネットで購入できるED治療薬の4割は偽造薬

――ED治療薬はインターネットでも購入できますが、病院で処方される薬と違いはありますか。

インターネットで手に入るED治療薬は、約4割が偽造品だという調査があります[注4]。成分の含有量が多くて効きすぎたり、全く含まれなかったりと、悪質な偽造薬が出回っているのです。ネズミを殺す殺鼠(さっそ)剤や、中枢神経興奮作用を持つアンフェタミンを含むこともあるほどです。

偽造薬に多い副作用はほてりです。正規のED治療薬でも多少は出ることがありますが、偽造品では40%を超えます。別の成分が混ざっているか、含有量が多いことが原因だろうと推察します。他にも、偽造薬を使うたびに吐き気、動悸(どうき)、めまいなどが起こるといった情報が製薬会社に寄せられています。

さらに怖いのは、死に至る恐れがあることです。シンガポールでは2008年、ED治療薬の偽造品、あるいはその疑いのある薬による死者が4人も出ました。日本でも数人が意識障害で搬送され、海外で製造された偽造薬を使ったことが分かっています。

――EDで受診する人は多いのでしょうか。

日本人のED患者の受診率は推計8%と非常に低い数字です[注5]。繰り返しになりますが、ED患者は心筋梗塞や脳卒中患者の予備軍です。医療機関を受診せず、さらに偽造薬を使った場合は生命にも関わるので、ぜひ医療機関を受診していただきたいと思います。

受診の目安は、朝立ちとマスターベーションです。若い頃に比べて硬さが足りない、朝立ちが減った、と感じたら動脈硬化が進んでいるかもしれません。50歳を過ぎて気になる兆候があれば、検査を受けることをお勧めします。血糖、コレステロール、中性脂肪などの項目のほか、動脈の硬さを調べる検査も有効です[注6]。受診は、泌尿器科か内科、あるいは血管についての検査設備のある循環器科でもいいでしょう。

[注2] OD錠(Oral Disintegrant):口の中に入れると唾液で速やかに溶けるように作られた錠剤のこと。口腔内崩壊錠とも呼ばれる。

[注3] 前立腺肥大症:加齢などにより前立腺が大きくなり、尿道を圧迫して頻尿や残尿感などの排尿障害が生じている状態のこと。PDE5阻害薬の血管拡張作用により、前立腺周辺の血行を改善して症状を緩和させる。

[注4] 偽造ED治療薬4社合同調査結果2016(調査期間:2016年3~8月)

[注5] ファイザー社による推計

[注6] 両腕・両足首の血圧と脈波を測定することによって動脈の硬さを調べるCAVI(キャビィ)検査。約5分で計測可能。

引用元:日経Gooday2017年11月号